コラム column

ステンレス鋼SUS303の熱伝導率とは

1: SUS303の基本特性

1-1: SUS303とは何か

SUS303は、オーステナイト系ステンレス鋼の一種で、特に切削加工性を向上させるために硫黄(S)やセレン(Se)が添加された材料です。これにより加工時の工具摩耗が減少し、高精度な部品製造に適しています。一方で、耐食性はSUS304よりやや劣りますが、一般的な環境下では十分な耐食性能を持っています。

1-2: SUS303の成分表

SUS303の代表的な化学成分は以下の通りです。

  • 炭素(C):0.15%以下
  • クロム(Cr):17.0〜19.0%
  • ニッケル(Ni):8.0〜10.0%
  • 硫黄(S):0.15〜0.35%(切削性向上添加)
  • セレン(Se):0.03〜0.08%(場合によって添加)

この特殊な成分構成により、切削加工時の性能が大きく向上します。

1-3: SUS303の規格と分類

SUS303はJIS規格において「耐食性および加工性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼」として分類されています。ISOやASTM規格でも同様のグレードがあり、世界的に広く使用されています。


2: SUS303の線膨張係数

2-1: 線膨張係数とは

線膨張係数は、材料が温度変化によりどれだけ伸縮するかを示す物理的特性です。設計や加工において、温度変化による寸法変化を考慮するために重要な指標です。

2-2: SUS303の膨張特性

SUS303の線膨張係数は、約16.5×10⁻⁶/K(20〜100℃)とされ、一般的なオーステナイト系ステンレス鋼とほぼ同等の範囲です。これは、熱膨張による影響が比較的安定していることを意味し、機械部品や精密機器の設計に適しています。


3: SUS303の熱伝導率

3-1: SUS303の熱伝導率の重要性

熱伝導率は材料が熱を伝える能力を示し、加工時の熱管理や熱応力のコントロールに重要です。SUS303はオーステナイト系の中では中程度の熱伝導率を持ち、加工時の熱蓄積を抑える効果があります。

3-2: 比較:SUS303と他のステンレス鋼

SUS303の熱伝導率は約16 W/m·K(20℃付近)で、SUS304の約16〜20 W/m·Kと比較してやや低い傾向にあります。フェライト系やマルテンサイト系ステンレス鋼はこれより高い熱伝導率を示しますが、SUS303は切削加工性と耐食性のバランスが良いのが特徴です。


4: SUS303のヤング率

4-1: ヤング率とは

ヤング率(弾性係数)は、材料の弾性変形の硬さを示す物理量で、応力とひずみの比例関係の傾きを表します。構造物の設計や機械部品の耐久性評価において重要な指標であり、高いヤング率は剛性が高いことを意味します。

4-2: SUS303のヤング率の値

SUS303のヤング率は約193〜200 GPa(ギガパスカル)とされています。これは一般的なオーステナイト系ステンレス鋼とほぼ同等であり、構造用として十分な剛性を持つことが特徴です。


5: SUS303の機械的性質

5-1: 引張強度と降伏点

SUS303の引張強度は約520〜750 MPa(メガパスカル)で、降伏強度は約210〜400 MPaの範囲です。これにより、優れた耐荷重性能を持ちながらも加工性が良いことが評価されています。

5-2: 硬さと耐力

硬さは一般にHRB70〜90程度で、加工性と耐摩耗性のバランスが取れています。耐力に関しても高く、切削工具や機械部品として幅広く利用されています。


6: SUS303の特性と用途

6-1: SUS303の腐食性と耐食性

SUS303は加工性向上のために硫黄が添加されていますが、これにより耐食性はSUS304よりやや低下します。一般環境下では十分な耐食性を持つものの、海水や強酸性環境には注意が必要です。

6-2: SUS303の金属加工における用途

加工性に優れているため、ネジ・ボルト・機械部品・精密機械部品などに広く使用されます。特に自動車部品や電子機器、食品機械分野でも加工のしやすさから好まれています。


7: SUS303とSUS304の違い

7-1: 成分の違い

SUS303は切削加工性を高めるために硫黄(S)やセレン(Se)が添加されています。これに対し、SUS304はこれらの添加元素を含まず、より高い耐食性を持ちます。具体的には、SUS303の硫黄含有量は約0.15〜0.35%であるのに対し、SUS304はほぼ含みません。

7-2: 特性の違い

SUS303は優れた切削加工性を持つ一方で、耐食性はSUS304に劣ります。SUS304は耐食性に優れ、特に腐食環境下での使用に適しています。また、SUS304は溶接性に優れているのに対し、SUS303は溶接後の耐食性低下や割れのリスクが高いため注意が必要です。


8: SUS303の加工方法

8-1: 切削加工のポイント

SUS303は硫黄添加により切削性が向上しているため、高速切削や複雑形状の加工に適しています。ただし、切削時の熱発生を抑えるために十分な切削液の使用が推奨されます。また、工具の摩耗を抑えるために適切な工具材質の選定が重要です。

8-2: 溶接と組み立て

SUS303は溶接性がSUS304より劣り、溶接後の割れや耐食性低下が起こりやすいです。したがって、溶接部の応力集中を避けるための設計や後処理、溶接材料の選定が重要となります。溶接が困難な場合は、機械的結合や組み立てによる接合が推奨されることもあります。


9: SUS303の流通と調達

9-1: 市場における流通状況

SUS303は国内外の金属材料市場で広く流通しており、標準的なステンレス鋼の一つとして安定した供給がされています。特に切削加工向けの素材として需要が高いため、様々な形状・サイズで入手可能です。

9-2: SUS303の入手方法

SUS303は鋼材商社や専門のステンレス鋼販売業者を通じて調達可能です。板材・棒材・パイプなど多様な形態で提供されており、規格品から特注品まで対応しています。調達時には用途に応じて必要な規格や品質証明書の確認が重要です。